父子手帳は、その名の通り妊娠した女性の夫(父親)のためのものです。育児にあたっての心構えや知識が平易に書かれていて、さらに「生の声」あり「ホンネ」ありでぼーっと読んでいて面白いですが、それだけでなく行政が男性の育児知識をどのように考えているのかを知る上でも、さらに学校教育における保育教育の観点からみると育児をするための「最低限の基本的知識」が何であるかを知る上でも貴重な資料といえます。
「母子手帳」は知っているけれども「父子手帳」は知らない、という方が多いでしょうがそれもそのはず、父子手帳は発行が義務づけられているものではなく、各自治体(の少子化対策や男女共同参画の関連部署)が任意に編集・発行しているものです。従って、いま発行しているところでも予算措置の終了とともに、発行をやめてしまう可能性もあります。
対して母子手帳は、「母子保健法」という法律をその根拠にしています:
第十六条 市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。
なお母子保健法は保育士試験を受ける方は全文読むことをお勧めします(そんな長くないので/家庭科教採組も?)。母子手帳は日本に導入されて以来、妊産婦(と子ども)の健康を守るということを第一の目的としてきました(国によっては電子カルテ化されていて不要なため、母子手帳が無いようです。)ですが、それだけでなく妊娠出産育児の基礎知識を啓蒙する役割も当然あり、その部分のみを抽出して父親向けに改変したものが父子手帳であるということもできます。
(参考:父子手帳の内容は各自治体が勝手に決めますが、母子手帳の中身は省令で定められていて,参考様式もネットで見られます。家庭科の教材としておなじみ?)
以下に各自治体が発行する父子手帳を列挙します(イクメンプロジェクトのサイトも参考にしましたが、リンク切れとかもあった…)。けっこう多くの自治体でpdf化されていて、ありがたい。
- 東京都「父親ハンドブック」
- 千葉市「育男手帳(イクメンハンドブック)」
- 埼玉県「イクメンの素(もと)」
- さいたま市 「父子手帖」(「父子健康手帳」からリニューアル)
- 長野県「ながのイクメン手帳」
- 愛知県「子育てハンドブック お父さんダイスキ」
- 岐阜県 父子手帳 「パパスイッチオン!ぎふイクメンへの道」
- 和歌山市「父子手帳~和歌山 男の子育て指南本~」
- 大阪府寝屋川市「父子健康手帳」
- 奈良県「新米パパの子育てガイドブック」
- 兵庫県西宮市 父子手帳「Hello Baby!! みやっこの育て方 ~お父さんになるあなたへ~」
- 香川県高松市「たかまつ父親手帳」
- 長崎市「パパノート(父親のための育児手帳)」
- 大分県「papa☆bon~お父さんのための育児支援ブック~」
- 熊本県「パパ手帳」
ざっと見ましたが、素人目にもピンキリですね^^; あとデザインがちょっと…というのもありますが母親がチャンネルであることを意識しているのでしょう。また「別のお話」で内容にも踏み込めたらな、と思います。
さて、各種調査を参照すると、子どものある男性の育児時間は有意に上昇しているとわかりますが、女性の育児ストレスのうち、「父親の無関心・非協力的態度」が多くを占めているのもまた事実です。父子手帳の発行といった施策は男性間(あるいは世帯間の)の「育児格差」(安易なネーミングだが)を是正するという意図を持つということが推察されます。
さらに、もう一つの大きな目的として父親の育児休業の推進があげられるでしょう。「子ども・子育てビジョン」における男性の育児休業取得率の平成29年の目標値(参考指標)はなんと「10%」とされています。ちなみに現状はここ数年の間、1%台をさまよっているという暗澹たるもの。とくに共働きが進む現今において、女性に課せられた負担を軽減することは急務ですが、これらの父子手帳を読み「育児の大変さ」の一端を妊娠中から知る、ということが取得率向上のため第一歩となると考えられているのかもしれません。
もちろん父親の意識向上のみに還元することなどできるはずもなく、より解決が難しい問題が横たわっていることは自明ですが、それはまた別のお話。