Monthly Archives: February 2014

「父子手帳」のお話。

父子手帳は、その名の通り妊娠した女性の夫(父親)のためのものです。育児にあたっての心構えや知識が平易に書かれていて、さらに「生の声」あり「ホンネ」ありでぼーっと読んでいて面白いですが、それだけでなく行政が男性の育児知識をどのように考えているのかを知る上でも、さらに学校教育における保育教育の観点からみると育児をするための「最低限の基本的知識」が何であるかを知る上でも貴重な資料といえます。

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母子手帳」は知っているけれども「父子手帳」は知らない、という方が多いでしょうがそれもそのはず、父子手帳は発行が義務づけられているものではなく、各自治体(の少子化対策や男女共同参画の関連部署)が任意に編集・発行しているものです。従って、いま発行しているところでも予算措置の終了とともに、発行をやめてしまう可能性もあります。

対して母子手帳は、「母子保健法」という法律をその根拠にしています:

第十六条  市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。

なお母子保健法は保育士試験を受ける方は全文読むことをお勧めします(そんな長くないので/家庭科教採組も?)。母子手帳は日本に導入されて以来、妊産婦(と子ども)の健康を守るということを第一の目的としてきました(国によっては電子カルテ化されていて不要なため、母子手帳が無いようです。)ですが、それだけでなく妊娠出産育児の基礎知識を啓蒙する役割も当然あり、その部分のみを抽出して父親向けに改変したものが父子手帳であるということもできます。

(参考:父子手帳の内容は各自治体が勝手に決めますが、母子手帳の中身は省令で定められていて,参考様式もネットで見られます。家庭科の教材としておなじみ?)

以下に各自治体が発行する父子手帳を列挙します(イクメンプロジェクトのサイトも参考にしましたが、リンク切れとかもあった…)。けっこう多くの自治体でpdf化されていて、ありがたい。

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ざっと見ましたが、素人目にもピンキリですね^^; あとデザインがちょっと…というのもありますが母親がチャンネルであることを意識しているのでしょう。また「別のお話」で内容にも踏み込めたらな、と思います。

さて、各種調査を参照すると、子どものある男性の育児時間は有意に上昇しているとわかりますが、女性の育児ストレスのうち、「父親の無関心・非協力的態度」が多くを占めているのもまた事実です。父子手帳の発行といった施策は男性間(あるいは世帯間の)の「育児格差」(安易なネーミングだが)を是正するという意図を持つということが推察されます。

さらに、もう一つの大きな目的として父親の育児休業の推進があげられるでしょう。「子ども・子育てビジョン」における男性の育児休業取得率の平成29年の目標値(参考指標)はなんと「10%」とされています。ちなみに現状はここ数年の間、1%台をさまよっているという暗澹たるもの。とくに共働きが進む現今において、女性に課せられた負担を軽減することは急務ですが、これらの父子手帳を読み「育児の大変さ」の一端を妊娠中から知る、ということが取得率向上のため第一歩となると考えられているのかもしれません。

もちろん父親の意識向上のみに還元することなどできるはずもなく、より解決が難しい問題が横たわっていることは自明ですが、それはまた別のお話。

「ヤマイモとは何か」のお話。

「ヤマイモとは何か」というタイトルから哲学的なお話を想像した方、残念ながらハズレです(そんなひといるわけない?)。

さてつい昨日まで筆者は「ヤマイモ」は「ヤマイモ」だと思っていました。(ちょうどスポーツに興味のない人がバスケもサッカーも野球も「球遊び」でしょと宣うように。)食品学かなにかの授業で日本原産であると聞きかじった程度の知識しかなかったのです。

ところが、ヤマイモにも様々な種類があること、種類によって原産地域が異なること、そもそも「ヤマイモ」という呼び名自体、学問上用いられないことを昨日知ったのでそれをまとめた次第です(出典:遠城道雄鹿児島から南西諸島におけるヤムイモ栽培, 2004. など)。

ヤマノイモ科ヤマノイモ属(農業的にはヤムイモ)のうち、日本で食用にされている、つまり一般に「ヤマイモ」と呼ばれているものが、「自然薯(じねんじょ、学名:Dioscorea japonica)」「大薯(だいしょ、学名:Dioscorea alata)」「薯蕷(じょよ、学名:Dioscorea opposita)」の3つにわかれる、というところからお話は始まります。

自然薯

D.japonicaの名の通り、日本原産です。やったー。裏を返せば他の2種は日本原産ではないということです。広く日本に自生していて(もちろん栽培され私たちが食べてもいます)、一般に「ヤマノイモ」といったらこれですね。

大薯

西アフリカ原産。沖縄で栽培されているそう。食べたことないです。

薯蕷

これはやっかいで、形状から以下の3つにさらに分かれます:

  1. ナガイモ群(長形種)  いわゆる長芋がこれです。
  2. イチョウイモ群(扁形種) 大和言葉でも、いちょういも。平たい。
  3. ツクネイモ群 (塊形種) 同じく、つくねいも。ボール上だそうです。実は私は見たことないです。

薯蕷全体を長芋と称することもあるようです。チャイニーズヤムの英名の通り、原産は中国。

呼称のやっかいさは上掲の論文にある以下の文章に端的に現れています。

ところで,ヤムイモの名称に関してであるが,「ジネンジョ」の別名が「ヤマノイモ」であったり,「ナガイモ」や「ジネンジョ」を「ヤマイモ」と呼んだり,さらに関東地方の「ヤマトイモ」(イチョウイモ群に属する),関西地方の「丹波ヤマノイモ」(ツクネイモ群 に属する)などの地方名もあり,統計資料で もこれら呼称を混同して用いていることがある…なお,南九州では「ダイジョ」を「ツクネイモ」と呼ぶことが多いが, 前述のように「ツクネイモ」とは「ナガイモ」の中の1群を指す言葉 であり,まったく別の種であるので,こちらも注意を払いたい。

注意払いきれなさそう。消費者や小売店だけでなく、調理学の学術書にも疑問の残る書き方がちらほら見られたりもする(ヤマイモについて最もページを割いているであろう「あの」分厚い調理学のテキストも少しミスリードな書き方がされていたり)。

ちなみに、本筋とは全く関係ないですが、Wikipediaの「Dioscorea opposita」の項(英語版)にとろろ汁に関してこんなことが書いてあったんですが…

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“The jelly-like substance made from grating the yam, tororojiru (Japanese: とろろ汁), is often served in, or alongside, a number of other dishes. However, during the Edo period, tororojiru was also widely used as a personal lubricant for sexual activities, and it was thus considered improper for it to be eaten by a woman. This aversion also derives from the loud slurping sound one makes when eating it, which was considered to be un-ladylike.”

…ほんとなんですかこれ^^; 仮に本当だとしたら興味深いし、嘘だとしてもとろろ汁を食することが欧米人の目にどのように映っていたかを考える上で面白いです。…が、それはまた別のお話。